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預貯金の仮払い制度~民法(相続法)改正~

人が亡くなると、その亡くなった方名義の預金口座はいったん凍結されてしまいます。
いったん凍結された預金口座から預金の引き出しをするためには、遺産分割を完了させる必要があります。遺言書がある場合には遺言に従って財産を分け、遺言書がない場合には相続人全員で遺産の分け方を相談して決めるといった手続きが必要になります。
これらの手続きを亡くなった後すぐに行えるかというとやはり難しいものがあります。
その一方で入院費用の支払いや、葬式費用など資金需要は亡くなってからすぐに発生しますし、家族の当面の生活費も必要です。これらの支払いが発生する時点では被相続人の預金口座が凍結されていることがほとんどでしょうから、誰かが立て替えて支払う必要があったり、事前にお金を引き出して手元現金を用意しておく必要がありました。
今回の民法改正ではこのような資金的な不都合が生じないようにするための改正が行われました。預貯金の仮払いを認めるという制度です。
仮払いの方法には2パターンあります

1.仮分割の仮処分を受けるための要件の緩和

実は以前から一定の要件を満たせば預貯金の仮払いを認める制度はありました。しかし要件のハードルが高く、仮処分の申し立てを裁判所に行う必要があり、利用するにはなかなか難しい制度でした。今回の改正でその適用要件の緩和が行われました。

新要件
①遺産の分割の審判又は調停の申し立て
②被相続人の預貯金債権を行使する必要がある場合
③他の共同相続人の利益を害しないこと
④相続人による仮分割の仮処分の申し立て

緩和されたとはいえ、裁判所に仮処分の申し立てをする必要があるため、簡単に使える制度ではないように感じますし、仮払いを認めるかどうかは家庭裁判所の裁量に委ねられています。仮払いを受けたい金額がそれほど高額でないならば次の制度による仮払いを受ける方が便利だと思います。

2.家裁の判断を経ずに払い戻しを認める制度

こちらの制度の方が圧倒的に活用の場は大きいように思います。預貯金の額のうち一定の金額については家庭裁判所の判断なしに払い戻しを認めるという制度です。
その一定の金額とは相続開始時の預貯金債権の額の三分の一に、その払い戻しを受ける共同相続人の法定相続分を乗じて計算した金額とされます。
具体的な数字を用いて計算してみます。被相続人の相続開始時の預貯金債権の額が1200万円であり、相続人が子供2人と仮定した場合、その相続人一人が仮払いを受けることができる金額は
1200万円×1/3×1/2=200万円
が払い戻しを受けることができる金額となります。ただし、標準的な必要生活費や平均的な葬式の費用の額、その他の事情を勘案して金融機関ごとの払い戻し上限額が法務省令で定められます。(預貯金債権の額が何億もある人だとこの計算でもかなりの金額になってしまいますからね…)どちらかというと少額の資金需要に対応する制度がこちらとなっています。
払い戻しが認められると、その払い戻しを受けた金額の遺産分割を受けたものとされます。その後のトラブルを避けるためにも、払い戻しの金額や用途はしっかり記録しておく必要があります。

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