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自社株式の分散にはご注意を!

私がお客様から事業承継に関するご相談を受ける際に、株主名簿を見た瞬間に「これは大変だな…」と思う状況があります。それは自社株式が親族を中心に何十人にもばらまかれている状況です。

上場会社ならば複数の株主がいるのは当たり前です。しかし非上場会社にとっては株主が分散している状況は、株主が増えれば増えるほど厄介な問題を引き起こします。過去の相続対策で親族みんなに自社株を贈与した結果、このような状況に陥ってしまったのでしょう。
たしかにその対策を行った時点では、相続税の減少効果があったからよかったでしょうが、時間がたつにつれて違う問題が発生します。兄弟間で株式を持ち合ってる段階まではいいとして、その子供や孫にその株式が承継されて行ってしまうと、株主同士がお互いの顔も知らないといった状況が発生します。とはいえ株主ですから、会社の重大な決定に関しては、議決権を有しているため、そのたびにお伺いを立てなければいけません。

経営者側の保有する議決権割合が少ないということは、経営者側の意思が経営に反映されにくいということであり、安定的な経営にとっては大きなリスクです。経営に携わっていない株主からの株式の買い取り請求の問題も生じます。あとになればなるほど株式の分散を解消するのは困難になっていきます。

株式を分散させないために~事業承継の段階での対策~

株式の分散によるリスクを回避するためには、事業承継の段階で対策を講じることが不可欠です。よくあるパターンは、相続で不公平を生じさせないために、兄弟で均等に株式を相続させるといったケースです。相続財産に占める自社株式の割合が高い場合には、株式を一人に集中させてしまうとどうしても不公平が生じてしまいます。遺留分(相続人に認められる、最低限の遺産取得分のことです。)などのからみもあるのでやむを得ずといった場合もあるでしょうが、実際に経営を引き継ぐ後継者としては厄介な問題を抱えることになります。

しかしこの問題に関しては、民法改正(遺留分を計算する基礎財産に含める贈与について、改正前は相続開始の何年前になされたものであっても基礎財産に含めるとされていますが、改正法案は、相続開始前の10年間の贈与に限定している)や、事業承継税制の活用により解決が可能です。

親族内承継をお考えであれば、特例制度が設けられている期間内に早めに事業承継税制を活用して贈与を行っていただくのが一番です。そのうえで後継者以外の相続人に関しては、金融資産などを残してあげることによって不公平感を少しでも解消してあげるのが良いでしょう。

株式を分散させないために~種類株式の活用~

株式の分散対策には種類株式の発行も効果を発揮します。種類株式とはその株式に対し特別な権限が付与されていたり、あるいは権限が制限されている株式のことを言います。
例えば経営にタッチしていない株主の所有する株式を、議決権のない種類株式に変えてしまうことにより、経営者により権限を集中させることができます。
また取得条項付株式(一定の事由が生じたとき、会社が株主に対して株式売渡請求をすることができる株式)に変更し、持ち主に相続が起きた際や、株を保有する従業員が退職する際には会社が買い戻すことができる設定をしておけば、これ以上の分散を防ぐことができます。

株式の買戻し

すでに分散している株式を集中させるには、やはり株主から株を買い集めるのが一番多いパターンです。買主は現経営者、後継者、株式の発行会社による自己株買いの3パターンがほとんどです。

個人で株の買い取り資金を調達することは難しいため、発行会社による自己株買いを行うケースが上記3パターンの中では一番多いように思います。この自己株の買い取りですが、通常の株式の譲渡とは課税の方式が違うため、注意が必要です。

(1)譲渡した株主に対する課税
 譲渡した株主に対しては利益積立金相当部分に対し「みなし配当課税」が行われます。個人株主の場合、他の所得と合計で「総合課税」の対象になります。金額によっては非常に高い税率で課税が行われる可能性があるため注意が必要です。法人株主の場合は「受取配当金の益金不算入」の計算が必要になります。

(2)自己株買いをする会社側の課税
 自己株買いを行う会社について特に課税は行われませんが、自己株買いは「配当」として取り扱われるため「源泉徴収」を行い、徴収日の翌月10日までに源泉所得税の納付を行う必要があります。忘れがちなのでご注意ください。

(3)他の株主に対する課税
 自己株買いをするにあたって、価格に注意しないと既存株主に対して贈与税課税が行われることがあります。

分散した株式を再度集中させることは、非常に労力を必要とします。問題を先送りせず、早期に解決を図ることが重要です。

編集後記
東山動物園に家族で行ってきました。天気も良く混むかな?と思いきやいつもよりすいてるぐらいの状況でした。その日はなぜか動物たちがサービス精神旺盛。ユキヒョウのジャンプ、カメレオンの餌食べ、フクロテナガザルの「ア゛ア゛~~」の絶叫などなかなか見れないシーンを一杯見せてくれました。ライオンだけやる気なし。

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